2019年05月18日

医者屋の四方山話:寝たきりゼロ痴呆ゼロの秘密(2)

 前回に引き続き、寝たきりゼロ痴呆ゼロの島に隠された秘密(?)に迫ってみます。もちろん、私の独断と偏見も加えてです。
 私の勤務している診療所のある神島は、ちょうどお椀を伏せたような恰好をしていて、海抜171メートルの山が真ん中にあり、その北斜面のわずか200メートル×400メートルの場所にへばりつくように家々が密集していて「階段で転ぶと、隣の家の屋根に落ちる。」などと比喩されるほどです。そして、道路と呼べるようなものは、港に面した所にある一本のみで、家々を結ぶ通路のほとんどすべてが幅1メートル程度の階段で、どの家に行くにも階段を使わずにはたどり着けません。車やオートバイは用をなしません。したがって、どんな荷物を運搬するにも人手に頼るほか方法はありません。食料品はもとより、家具でも、布団でも、プロパンガスのボンベでも、家を新築するとなれば材木から瓦までも、すべて人力のみが頼りです。米一俵を平気な顔をして持ち上げられる女性(比喩が古くてすみません。)も珍しくはありません。さらに、いまでは簡易水洗便所がほぼ全戸に普及していますが、ほんの10年くらい前までは、月に一回の屎尿船が来るのを待って、いわゆる「こえたご」を担いで、すべての家から屎尿を運んだものです。年に一回くらいは「こえたご」をひっくり返してしまうといった、おかしいけれども笑えない事件が起こったのもなつかしい思い出です。
 というわけで、今回の秘密は、この階段にあります。島では、生活をするためには、というか、家にたどり着くためには、どうしても階段を使わざるを得ず、最も高いところにある家には階段の段数にして200段以上登らなければたどり着けません。また、生活必需品を売るお店は数軒しかありませんが、そのすべてが港の近くにあり、物を買うといっては階段を一往復、船が着いたといっては階段を一往復、もちろん診療所も港の近くにあるので、病気になっても階段を一往復、といった具合で、一日三〜四回、家から港近くまで往復するのが当たり前となっています。もちろんその時には手ぶらであることは少なく、何らかの荷物を持っていることがほとんどです。今でこそ、「健康のためにウォーキングをしましょう。」などといっていますが、島では、ずっずっと昔から、毎日毎日欠かさず、平地を歩くより何倍も負荷のかかる階段の登り降りを、荷物を持つといった加重負荷までかけて行ってきているのです。ご存知のように、ウォーキングの効果は、足腰が丈夫になるということもありますが、心臓と肺の機能の強化が最も重要なポイントであることはいうまでもありませんが、島では、生活するために階段を使わざるを得ず、これが心臓と肺を強くし、容易にへこたれない強靭な体を作り上げてきたと行っても過言ではないと考えます。
 さらに、島では海女という仕事があります。今では乱獲を押さえるということで、年に10日、一日一時間半の作業を二回というふうに制限されていますが、70歳を過ぎたお年寄りも現役で頑張っています。私も一緒に連れていってもらったことがありますが一時間も経たないうちにあえなくダウンしてしまうほどハードな仕事でもあります。海女は泳ぎと潜りから成り立っており、泳ぎでは全身の筋肉を余すことなく使い、潜りではまたまた心臓と肺を十二分に使います。
 これに加えて、お年寄りの趣味として畑作りがあります。前述のように、島にはほとんど平地がなく、また海岸に近いところには人家が密集していますから、いきおい畑のある場所は、人家よりさらに高い場所か、島の裏側の家から遠いところにあります。最も高い場所にある畑は山の頂上近くの海抜150メートルくらいのところにあるから驚きです。夏には朝夕の涼しいときに、冬にはひなたぼっこのできるお昼に、お年寄り達はせっせと出かけていきます。
 このように、海女と畑作りは体を鍛えているという効用がありますが、その他にも大切なことがあります。それは、両者とも、みなさん嬉々としてやっているということです。海女については生活のために辛くても行っている側面もありますが、海に潜る楽しさ、獲物を得る楽しさがあり、畑作りでは収穫の喜びがあります。とれた物を、家族が、また遠くで暮らしている子や孫が喜んで食べてくれるという楽しみがあります。また、一日二回の海女作業の間にある休憩時間には、火をたいて冷えた体を温めながら、おやつを食べ食べ世間話に花が咲き、畑作りに行ったお年寄り達は、一汗かいたあとにゆっくりお茶を飲みながら海を眺めています。
 健康のためには体を動かすことが大切であるといわれ、ウォーキングなどが勧められています。そのこと自体は、とても重要なことであり、私もお勧めいたしますが、ただ健康のためだけにするというのは如何なものでしょうか。これらを行うために、必須のことは「楽しくする。」ということです。「健康のために歩くんだ!目標一日一万歩!」だけでは、長続きしませんし、逆に日本人特有のまじめな性格が災いして、「今日は六千歩しか歩けなかった。」と、落ち込んでしまうようなことがあってはいけません。「今日は雨だったので歩けなかった。」といってがっかりしてはいけません。体調がすぐれないのに強行することはもっといけません。歩くことがストレスになってしまっては、元も子もないのです。歩くことによって、木々を見て季節の変化を感じ取ったり、日頃見慣れているはずの街の中に思わぬ別の姿を発見したり、一緒に歩く人との会話を楽しんだり、行き交う人達と声を掛け合ったりして、楽しみましょう。そして、生活の一部の楽しみとして取り入れてしまいましょう。
名称未設定.jpeg
posted by M.OKUNO at 06:59| Comment(0) | 医者屋